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レーザーテック【6920・東1】半導体用マスク検査装置で世界シェア独占 リーマンショック後11年で時価総額は100倍に拡大

 レーザーテックは、半導体用シリコンウェハ上に焼き付ける回路パターンの元となる「半導体マスク」の検査装置などを開発、販売する企業だ。同社は時価総額を、リーマンショック直後の2009年からの11年間で100倍と大きく伸ばしてきた。まさに市場価値を大幅に増加させた、隠れたエクセレント・カンパニーである。同社はリーマンショックを契機にビジネスモデルを転換し、他社に先んじての研究・開発、ニッチなマーケットを狙う戦略を展開。現在はウェアファブ向けマスク検査装置で90%以上という独占的なマーケットシェアを持つ。特に最先端のEUV光用マスク検査装置では対抗する企業がおらず、今後も引き続き高成長が予想されている。

岡林 理社長

Profile◉おかばやし・おさむ

1958年5月16日生まれ。

2001年レーザーテック入社。02年営業部ゼネラルマネージャー。03年取締役。05年Lasertec U.S.A.,Inc.社長。05年常務取締役、06年営業本部長。07年代表取締役兼常務執行役員、Lasertec U.S.A.,Inc.取締役(現任)、Lasertec Korea Corporation理事(現任)、09年代表取締役社長(現任)。Lasertec Taiwan, Inc.董事、Lasertec

China Co., Ltd.董事、Lasertec Singapore ServicePte. Ltd.取締役(すべて現任)


半導体製造に不可欠な検査装置

価格は1台数億~数十億円


 2009年に99億円だった同社の時価総額は、15年に400億円超え。20年始めには4000億円と、5年で10倍になった。さらにその後も上昇を続け、夏には1兆円の大台を達成。リーマンショック以来11年で時価総額100倍と、企業価値を大幅に拡大させてきた。

 同社は光を使った検査計測装置を開発、販売、メンテナンスをしており、売上高の8割以上が海外というグローバルニッチ企業だ。20年6月期の業績は、売上高は前期比48.0%増の425億7200万円、営業利益は同89.7%増の150億6200万円。売上高比率のうち約75%は半導体関連装置によるものだ。

 中でも主力は、半導体製造時に使用される「マスク」と「マスクブランクス」の検査装置だ。人々の生活を支える電気製品や通信機器のすべてには、半導体チップが内蔵されている。半導体チップはシリコンウェハの表面に回路を焼き付けることで作られるが、この回路の原板にあたるのが「半導体用マスク」で、マスクを描くための板を「マスクブランクス」という。回路を正確に描くため、事前のマスクとマスクブランクスの検査は不可欠だ。

 現在、同社の半導体用マスク検査装置の世界シェアは、ウェハファブ(半導体ウェハ工場)市場だけに限ると90%以上となっている。さらに半導体用マスクブランクス検査装置に関しては、2000年初め頃より100%の世界シェアを維持し、ライバルがいない状況だ。

 製品の年間出荷台数は、1つの装置について数台、多くても20台程度だが、単価は極めて高い。検査装置の価格は1台数億円から十数億円で、中には40億円、またそれ以上の装置もある。こうした高価な装置の受注が伸びていることで、2021年6月期には800億円の受注を見込んでいる。20年6月期の販売先は台湾の半導体製造企業のTSMC、米インテル、韓国の三星の3企業で全売上高の約70%を占める。

「検査装置は、半導体の微細化が進むごとに、より微小な欠陥を検査できるようバージョンアップを繰り返したことで、価格も上がってきた。また、当社の技術陣が直接顧客から将来のニーズを聞き出し、それに基づいて、スピーディーで付加価値の高い製品開発を続けています」(岡林理社長)

▲2017年に発表した世界初のEUVマスクブランクス 欠陥検査装置「ABICS E120」

















薄利多売の事業を売却

狭い市場に集中し製品を差別化


 同社は1960年に、松下通信工業出身の内山康氏によって、医療用X線テレビカメラシステムの開発・製造を行う会社としてスタートした。最初は大企業へOEM供給を行っていたが、70年代になると直接顧客に販売するオリジナル製品を展開し、技術を幅広く発展させた。1976年に世界で初めてLSI用マスク検査装置を開発、市販を開始。1985年には世界初のカラーレーザー顕微鏡を開発し、80年代後半には、当時需要が急増していた液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどのFPD(フラットパネルディスプレイ)関連の大型フォトマスク欠陥検査装置やカラーフィルム修正分野へ参入した。1990年には株式を店頭公開、2000年には同社初の半導体マスクブランクス検査装置を開発した。

 しかし2009年に現社長の岡林氏が就任した時、同社は売上高92億円に対して6億円の赤字を抱えていた。当時は半導体関連装置よりもFPD用カラーフィルム修正装置が主力事業だったが、他社製品との差別化ができず薄利多売の状況だった。前年に起きたリーマンショックにより需要が低迷したことも業績不振の一因となっていた。

「当社はファブライト(製造の大部分を外部に委託する企業)なので、そもそも大量生産によるメリットが得られていなかった。一方で私たちは他の企業では問題解決ができないような、要求レベルが高いお客様を得意としています。ですからFPDカラーフィルム修正装置事業に代わり、経営リソースを半導体ウェハ製造関連装置に向ける決断をしました」(同氏)

 このビジネスモデルの転換によって、同社は半導体関連装置の研究開発に専念していった。同社が狙ってきたのは、高い技術要求がありながら大企業が参入するほど大きくなく、一方で中小企業には経験や技術の点で参入が極めて困難な市場。中でも注力したのが半導体マスク検査装置で、関連市場の中でも"マスクを使って半導体ウェハを製造するウェハフ

ァブ市場"だけに必要な機能に特化した装置を開発したことで、2009年には15%にすぎなかった世界シェアを、現在の90%まで大きく広げていった。

「小さい会社なので、限定されたマーケットセグメントに焦点を絞り、100%に近いマーケットシェアを取る戦略。広くやるとアブハチ取らずで、中途半端になってしまう」(同

氏)

 2009年当時の連結売上高92億6600万円に対して、内訳は半導体関連が30%、FPD関連が53%だった。これが2年後の11年には、連結売上高127億2200万円に対して半導体関連が

50%、FPD関連が37%と逆転。その後も半導体関連装置の売上比率が上がるにつれ、低迷していた業績が回復し、15年6月期には連結売上高151億8700万円、営業利益47億2200万円という高収益企業へと成長した。


最先端の半導体製造に不可欠

オンリーワンの技術「EUV検査装置」


 2017年から現在にかけての3年間、同社の業績はさらに拡大している。17年6月期に172億7800万円だった売上高は、20年6月期には425億7200万円と約2.5倍に成長した。この成長を牽引しているのが、EUVマスクとマスクブランクスの検査装置だ。

 EUV(極端紫外線)リソグラフィを用いた最先端の半導体製造技術は、世界中の半導体製造関連企業が開発にしのぎを削り合っている状況。EUV光を使うと、これまでのレーザー光より微細な回路を描くことができるため、高性能スマートフォンやデータセンター向けサーバなどに内蔵される半導体製造での実用化が進んでいる。

 同社は2017年に、EUV光用のマスクブランクス検査を、やはりEUV光で行う世界初の装置を発表。EUV光を使うことで、これまで検知できなかったマスクブランクスの内部の異常も検査することができるようになった。この検査装置はEUVによる半導体量産に欠かすことのできないものだ。

「将来の事業を支える種として、2011年から経済産業省の支援を受け、6年ほどかけてEUV光を用いたEUVマスクブランクス検査装置を開発した。現在主力の新製品も、顧客の要望を受けて以前から開発を行ってきたもので、おかげさまでこの数年で果実が実り、収穫期が来た」(同氏)

 そして19年に発表したマスク検査装置では、やはりEUV光の使用によりさらに正確な検査ができるようになった。またこの装置はマスク上にペリクル(保護膜)を載せたままでも検査ができることから、今後ペリクルの導入が進めば、検査時の不純物の混入を防ぎ、製品の歩留まり上昇につながる。

 これら装置の価格は未発表だが、これまでの最高機種の価格40億円をさらに大幅に上回るとみられる。さらに半導体マスク検査装置ではアメリカにライバル企業が1社あるものの、現在、EUV光を使ったマスク検査装置の開発に成功したのは同社だけだ。


◀2019年に発表の世界初のアクティニック EUVパターンマスク欠陥検査装置「ACTIS A150」








旺盛な需要に向け研究開発費を倍増

EUV次世代機準備に注力


 5G通信の普及、テレワークによるデータセンターのサーバ需要、自動運転などの発展に伴い、半導体チップ上に描かれる回路の量がますます増加することで、さらなる微細化が求められる。EUVリソグラフィ光は今後の主流の技術となることが確実視され、半導体製造関連企業の設備投資は旺盛だ。同社の今期の売上高予想は前期比33.9%増の570億円としているが、現在でも1160億円(今期末までの予想)の受注残がある。またオンリーワンの製品

も多いので、1社から複数の装置の注文を受けることもあり、さらに伸びる可能性も大きい。

 現在、EUV光を使って半導体ウェハを作る「EUV露光装置」を製造しているのは、オランダのASML社のみ。ASML社はかつて日本のニコンとキャノンが独占してきた半導体露光装置のマーケットに参入し、いち早くEUV露光装置を開発したことでシェアを逆転。今では世界の露光装置の市場で一強となっている。EUV露光装置は1台100億円を大きく上回るといわれており、ASML社の2019年の連結売上高は118億ユーロ(約1兆4500億円)。半導体ウェハの微細化競争の激化に伴って、ASML社には100億ユーロ(約1兆2300億円)以上の受注残がある。

 レーザーテックの業績規模はASML社に遠く及ばないが、同社が手掛ける検査装置はEUV露光装置の運用には不可欠なもの。今後このマーケットは飛躍的な成長が予想される。同社の今後の成長余力にも極めて大きなものが期待できそうだ。

「これからの半導体の微細化はEUVによって行われるが、この技術はまだスタートしたばかり。今後はEUVがさらに技術的な世代を変えて使い続けられるだろう。今期は前期の倍の67億円を研究開発費とし、市場のさらなる微細化要求に合わせたEUVの次世代機に向けて準備をしていく」(同氏)

 同社の株価は上場直後の1991年に1万6400円をつけたが、リーマンショック直後には400円まで下がっていた。その後は業績の回復によって順調に株価を上げ、現在までに3回の1株から2株への株式分割を経ながら9000円台まで伸ばし、直近では約30年ぶりに1万円の株価をつけた。今後も業績の見通しから考えると一層の株高が予想できそうだ。




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