• 株主手帳編集部

三菱製鋼【5632・東1】特殊鋼を素材から製品まで一貫生産建機向け太径鋼材とばね製品に強み

 自動車や各種機械に使用され、現代社会を支える重要な素材の一つである「特殊鋼」。そのメーカーの中でも、製鉄所で作られる溶銑を原料に鋼材を製造・加工・販売しているのが三菱製鋼(5632)だ。今年5月に海外子会社の不振で特別損失を計上するが、22年度までに売上高1500億円を目標とする中期経営計画を発表。素材からの一貫生産を核に立て直しをはかる。


Profile◉さとう・もとゆき

1954年生まれ。78年三菱製鋼入社。2006年取締役、ばね事業部長。11年常務取締役、ばね事業部長、部品事業・技術管理部担当。13年常務取締役、鋼材事業・ばね事業・部品事業・技術管理部担当。15年取締役社長(代表取締役、現任)




高炉からの原材料を自社で精錬

「良い材料で良いものを作る」が伝統


 特殊鋼とは、鉄にニッケル、モリブデンなどさまざまな元素を加えることで、強度や硬度などの特性を付加したもの。同社の特殊鋼は、「高炉銑(溶銑)」を主原料としている。溶銑は鉄鉱石を高炉で溶融・還元することで造られ、同社の合弁会社である北海製鉄株式会社から供給される。他の特殊鋼専業メーカーが市中の鉄スクラップを電気炉で溶解しているのに対し、溶銑からできた鋼は不純物元素が少ないという特徴がある。

 同社は、必要とされる特性を与える元素を加えて精錬した特殊鋼を元に、さまざまな製品を製造し全世界に向けて販売している。2020年3月期の同社の売上高は1171億円で、うち「特殊鋼鋼材」事業が559億円、この特殊鋼素材を使用した「ばね」事業が452億円と、その大半を占める。

 特殊鋼鋼材は北海道・室蘭とインドネシアに生産拠点を持ち、室蘭は丸鋼の中でも太径製品の生産に特化、建設機械のマーケットに約3割のシェアを持つ。高い強度と耐久性が必要とされる建設機械や産業機械向けの用途が多く、パワーショベルやクレーンなどの旋回輪、足回りの心臓部であるスプロケットなどに使用される。

 なお、前期比では売上高122億円減、特別損失を計上したため当期純利益は赤字を余儀なくされた。

 ばねの生産は同社の祖業でもある。同社は1904年創立の「東京スプリング製作所」がルーツだ。当時、ばねの材料の特殊鋼はヨーロッパからの輸入に頼っていたが、第一次世界大戦が始まり輸入が中断。同社は材料から製品までの一貫生産を決め、特殊鋼の生産を始めた。現在は建設機械用巻ばねや板ばね、自動車懸架用のコイルばねやスタビライザーなど幅広い製品を製造している。

「自社材からばね製品を作っているのが、世界的に見ても当社の強み。『良い材料で良い部品を作る』というものづくりのDNAが、創業から続いている。最近ばね製品に対する技術の要求は高度化してきており、素材開発と製品づくりが同じ会社でできることで、要求に合ったタイムリーな製品が作れることが大きな強みです」(佐藤基行社長)














▲パワーショベルやクレーンなどに使われる 旋回輪を製造するマシン「リングローリング ミル」などの巨大な機械を製造











▲▶︎建築機械用巻ばねなど、人の背丈

ほどの大きなばねの製造を得意とする



タイでエンジン部品も製造

巨大機器装置の製造で存在感


一方、売上高の中で約1割の96億円の売上を占めるのが「素形材(そけいざい)」事業、102億円となっているのが「機器装置」事業だ。同社は三菱造船所の流れを汲む長崎製鋼と合併した歴史があり、この2事業はもうひとつのルーツといえる。

 素形材部門では電子機器部品などの素材に使用される金属粉末や、自動車エンジンのターボチャージャーに使われるタービンホイールなどの部品を製造している。この事業では約

20年前からタイの子会社に日本の技術を展開、現在では素形材部門の海外拠点として、素形材事業の売上の約4割をあげるに至っている。

「車は電動化に向かっているが、急にすべて切り替わるのではなく、あと15年くらいはハイブリッド車を含め、燃費向上、排ガス規制からターボチャージャーの普及がさらに進む。今はこの技術で世の中のお手伝いをしていきたい」(同氏)

 機器装置部門では巨大な機器の製作を中心に製造・販売を行っている。加圧力が1万トンを超える世界最大級の鍛造プレス機や、ベアリングや自動車用ギアなどの製造システムであるリングローリングミルなどが代表的な製品だ。中でも直径4メートルの旋回輪を製造するリングローリングミルは、世界でも数社しか製作できず、日本では同社のみとなっている。


海外子会社の減損処理終了

22年に売上高1500億円目指す


 同社は2020年3月期に大幅減益となった。これは最近悪化した海外事業にメスを入れ、特別損失として海外子会社全体で計150億円の減損処理を行ったため。現在、北米拠点の生産体制の再編を進め、インドネシアでは製造コスト削減を行うなど大規模な改革を推し進める。

「思い切って大きな減損処理をしリスタートするという趣旨。これまでは生産拠点を広げハード面でアピールしてきたが、今後はお客様の声を聴いた上で、我々の思いがこ

もった良いものをきちんと作って売るという原点に立ち戻っています」(同氏)

 中期経営計画では、2022年度に売上高1500億円、営業利益70億円を目標としている。「海外事業の構造改革」「製品力のさらなる強化」「素材から一貫生産ビジネスモデルの拡大」の3大方針を掲げ、持続的な成長を目指していく。製品開発力の向上に向け、営業戦略室を新設し情報分析から新製品の開発、量産化まで体系的に強化するなど、社内体質の改善を推し進めていく。

「当社の強みはやはり素材からの一貫生産。まずは、自社の強みをきちんと出せるところでやっていく」(同氏)




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